
近年、大学教員を取り巻く環境は激変の様相を呈している。教育・研究・行政という3本の柱のうち、行政分野、すなわち会議や提出書類の増大が、教育と研究の時間を制限し始めているのだ。同時に、入学してくる学生の基礎学力の低下も、大きな問題となって大学教育の現場に押し寄せている。
「学生の理解度を高めるために、講義時間内にテストを実施すると、講義内容が予定通りには進まなくなります。かといって、時間外の課題を出せば、その回収などに相当の手間がかかってしまうのです」という石田三樹教授の話を、越智泰樹助教授が引き継ぐ。「こうした状況から脱却するには、限られた時間のなかで教育目標を達成するために、新たな教授法を生み出すほかありませんでした」。
このようなお二人が2002年4月から稼働させたのが、コース・マネージメント・システム(CMS:Course Management System)だ。それまでは工夫に工夫を重ねても、従来の紙によるテストは回収、添削、返却に大きな労力を必要としてきたし、学生への教材や資料の配付ひとつにしても多くの問題を抱えていた。しかし、CMSの導入によって、学生は好きな時間に教材や資料をダウンロードでき、そこで講義内容を補完するテストを受けることもできるようになったのだ。
CMS上のテストに対する解答は、その場ですぐに採点結果を確認することができるため、学生の関心と理解度を高める効果があった。その成果として、ドロップアウト率(履修登録提出者のうち、最終試験を受験しなかった学生の割合)の低下や成績の向上が見られた。
「私が担当している『国際金融論』では、2001年度のドロップアウト率が27%だったのですが、2003年度は14%に激減しています。さらに最終試験受験者の成績を見ると、評価Aが13%から32%に、Bは27%から36%、Cは32%から20%、そして不合格者は27%から13%へと変化しており、明らかに成績の向上が見られたのです。学生がこうした取り組みを積極的に受け入れ、高く評価していることも、アンケート調査によって明らかになっています」と石田教授。
しかし、CMSを利用する現行の方式に問題がないわけではない。たとえば、小テストにしても選択式の単純問題が中心であり、記述式のテストも学生のレポートに直接朱を入れることはできず、別に設けたコメント欄に添削内容を記す以外はなかった。つまり、高まってきた教育効果をさらに向上させるためには、新たなツールが不可欠となってきた。
そこで、石田教授と越智助教授は書込みが可能なPDFフォームを利用した記述式テストを導入した。Adobe Acrobat 7.0 Professionalに同梱されているAdobe Designerで作成した解答用紙とAcrobatの注釈機能を併せて活用することで、CMSだけでは実現できなかった奥行きのある指導が可能になった。
「PDFフォームによる記述式テストの採用に際し、私は学生との間に決まり事を共有しました。ハイライトは意味が明確ではない、取り消し線は書き直し……というように、多彩な注釈ツールの意味をそれぞれ決めておくのです。このようにすれば、採点時間をさらに短縮することができますし、実際にコメントが必要な部分には、私が直接コメントを入れて、添削指導を施すことが可能です。また、これまでの『論述文の書き方』という導メモを添付機能でPDFに付けており、学生はレポートを書くたびにそれを参考にできます」と越智助教授。
講義資料の配付からスタートしたCMS利用だが、当初よりそれらをAdobe PDFに変換してCMS上で公開してきた石田教授と越智助教授にとって、PDFフォームと注釈機能の利用は、Adobe Acrobatの機能を積極的に活用した、延長線上でのソリューションとなった。全学的なAdobe Acrobatの活用を想定した広島大学情報メディア教育研究センターでは、Adobe Acrobat 7.0をCLPライセンスで導入している。
CMS上のテストに、PDFフォームを利用した記述テストを導入することで、生徒への出題、解答の回収、添削・返却に費やされる時間が劇的に短縮され、教員の生産性が向上した。
「学生は無償で配布されているAdobe Readerを利用して解答するため、PC環境があれば、どこでも、好きな時間に解答することが可能です。オフラインで解答し、オンライン時に解答を提出できる点も、Adobe PDFならではの柔軟性と言えるでしょう」と越智助教授。「この方法で記述テストを行えば、添削後の解答用紙を生徒に返却する一方で、自らの手元に残しておくことができるため、生徒の学習の記録を残せる、貴重な体験にもなる」と越智助教授は続ける。
近年、大学で問題となっている学生の記述力の弱さも、このような方法で解決の方向に進む可能性が出てきたと言える。「対面教育が最も優れていることは言うまでもない」とお二人は話す。しかし、さまざまな状況の変化によってそれが困難になりつつある今日、学生への対面教育を補完する形としてのAdobe Acrobatの活用は、これからさらに進化し、本格化していくに違いない。