
母親の膝に抱かれた乳児が、前に置かれたモニターを見つめている。そこからは繰り返し、「らまく、らまく、らまく……」という音が聞こえてくる。最初それに関心を示していた乳児も、時間の経過とともに飽きてきてむずかり始める。そのとき「らまく」が「だまく」に変わった。「だまく、だまく、だまく……」。一瞬、集中を取り戻したかのように見えた乳児だったが、すぐに注意はそれてしまう。次に「はまく、はまく、はまく……」という音が流れ出すと、乳児は再び集中してモニターを見続けるようになった。つまり、「ら」と「だ」は5ヶ月の乳児には聞き分けにくいが、「ら」と「は」ならば、明らかに違う音として認識していることを示しているのだ。
これは玉川大学に開設されている「赤ちゃんラボ」での研究のひとコマ。その中心となって研究を進めているのが、文学部リベラルアーツ学科の佐藤久美子教授。
「アメリカでは実験や調査を基に、乳幼児がどのようにして言葉を獲得していくのかという研究が非常に進んでいます。その研究結果は日本語にも当てはまるのか、これが『赤ちゃんラボ』開設のきっかけでした。この研究によって言語獲得のストラテジーが明らかになれば、将来はそれを語学教育に活かしていけると考えています」。
こうした研究を進めるなかでは、当然のことながら論文作成とその発表を行わなければならない。しかし、前述した乳児の微妙な表情の変化を文字で表現することは至難の業だった。
「乳児のほんのわずかな表情の変化を、いかにして論文のなかで表現するかを考えると、文字やグラフ、表組みだけではどうしても限界が生じてしまいます。そこで考えたのが、Adobe® Acrobat®の活用です。論文をAdobe AcrobatでPDF化すれば、必要な箇所に必要なムービーや音声を簡単に埋め込むことができます。これならば、実験中に変化を続ける乳児の表情や発音など、実験結果をリアルに発表できるようになります」。
しかも、Adobe Acrobat 7.0 Professionalは、さまざまなフォーマットのムービーをAdobe PDFに埋め込むことが可能なため、研究サイドで使いやすいものを自由に使用できるのも大きなメリットだ。
そして、論文作成においてAdobe PDFが標準化しているのには、もうひとつ大きな理由がある。それはフォントの埋め込みが可能なことだ。これまでは、論文作成者が強調を意図してある部分だけフォントに変化を付けたとしても、受け取る側が同じフォントを持っていなければその効果が失われてしまっていた。しかし、フォントの埋め込みが可能なAdobe PDFならば、プリントした場合も、またWeb上で発表した場合においても、執筆者の意図どおりのレイアウトが正確に再現できる。説得力にあふれる論文作成という観点から、これは非常に大きな意味を持つものだと言えるだろう。
ムービーや音声を埋め込むことによって、表現力と説得力の高い論文作成が可能になることに加え、次のような効果も期待できると、佐藤教授は話す。
「論文にムービーや画像、音声が埋め込まれていれば、どのような実験装置を使用しているのか、被験者と実験装置との距離はどれくらい離れているのか、どのような速度、テンポで音が流れてくるのか、この研究施設を訪問することが困難な遠隔地の研究者の方にも、実験の具体的な手法を理解してもらうことが可能になると考えられます」。
また、『赤ちゃんラボ』では脳科学の面からの研究も行われており、そうした分野の研究者にとってもムービーを埋め込んだPDF論文は大きな武器となってくる。ムービーを埋め込んだAdobe PDFは、今後さまざまな分野で必要不可欠な表現手段となり得るだろう。
これまで従来の紙で配布されてきた、研究成果などを紹介する『赤ちゃんラボ』のニュースレターだが、今後はこれをCD-ROMに収めて配布することとなった。ムービー付き論文を入れられるのに加え、紙に比較して大幅なコストダウンが図れるメリットも大きいからだ。
こうした研究面でのAdobe Acrobat 活用に加え、佐藤教授は教育面においてもその利用を試みようとしている。たとえば、外国語のリスニングや会話の教材にムービーを組み込むことにより、バーチャル留学を学生に体験させることなどにも取り組んでいきたいという。
「従来以上に教育効果を高めるには、学生の興味と関心を惹きつける教材の開発が欠かせません。メディアを変えることによって、教育効果がグッと上がることが期待できるのです。そうした意味でも、ムービーや音声が入った教材をつくれるAdobe Acrobatの活用は、今後に大きな可能性を持つものと感じています」。

Adobe Acrobat 7.0 Professional の『ムービー埋め込み機能』を使い、
レポートの中にムービーを埋め込むと、乳児の表情の変化がよくわかる。